この夏、前穂高岳北尾根

2016年9月1日~4日

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

この夏、ほとんど毎週、山 には登っているが、行きたい 山には行っていない。見たい 景色を見ていない。 9月2日の朝、塩Tさん、 K坂さん、菊Tさんと共に沢 渡の駐車場で目を覚ます。金 曜日というのに上段の駐車ス ペースはほぼいっぱい。久々 の快晴の予報に山ヤがたくさ ん集まっているのか。予報通 りの青空に心が弾む。 本日の目的地は涸沢まで。 9月の上高地は暑くもなく、 寒くもなく快適な道程、ただ、 クライミングギアを含めたテ ン泊装備が肩にズッシリ、足 はなかなか進まない。 14時 30 分涸沢ヒュッテ到着。涸沢の 景色は何時でも格別だ。正面 に奥穂、右に北穂、左に明日 登る北尾根、後ろに大天井岳 に至る稜線、今日はすべてが 見える。北アルプスに来た ~!ヒュッテ名物のおでん とビールで乾杯の後、テン場 に戻り夕食の準備。今日の食 当は私、タイ風イエローカレ ーは我ながらなかなかの出来 であった。明日の天気を祈り ながら、8時消灯。 3時起床、外は満天の星空。 各自で朝食を摂り、4時 30分、 涸沢のテン場を出発し、5、 6のコルに向かう。涸沢は既 に秋、身体が温まるまではダ ウンが必要だ。5、6のコル までは標高差200mのザレ た急登が続く。今日は既に、 4組が先行している。空が白 み始め、奥穂高・涸沢岳のデ ィテールが浮かび出し、やが てその山頂から赤く染まり始 める。モルゲンロートだ。し ばし絶景に足を止める。5、 6のコルに5: 45到着する。 ここで、前のパーティが登る までしばし休憩する。ここか ら見上げる5峰は急峻でナイ フリッジのように見えるが、 涸沢側にしっかりとした踏み 跡があり、安心して登ること ができる。岩稜好きにはたま らないコースであろう。 4峰のコルから先行パーテ ィのルートを観察する。以前、 塩Tさんはコルからリッジを 直上し、途中、涸沢側の緩傾 斜帯にでて、頂上に登ったと いう。今回のパーティはすべ て、奥又白側に向かう。ルー ト選択を迷った挙句、我々も 奥又白側のルートに向かった。 5峰と比較して4峰の岩は脆 く浮石が多い。先ほどとは一 この夏、前穂高岳北尾根 Y城 転して緊張の中、リッジを直 上し、奥又白側の緩傾斜帯に でる。4峰直下、バンドを右 上するところまでは容易であ ったが、そこからなかなか直 登できるルートを見つけられ ない。ようやく、涸沢側にト ラバースするルートを見つけ、 7時 30分4峰の頂上に到着。 次はいよいよ核心の3峰で ある。3,4コルに到着する と、先行の2パーティが山に 取りつき、1パーティがコル で順番待ちをしていた。一つ 前はベテラン男性2人と若い 女性1人のパーティで、女性 はアルパイン初体験だそうで ある。男性一人が先行し、1 ピッチ(P)までロープをフ ィックス状に張っていた。女 性はそのフィックスにフィリ クションノットで確保し、岩 壁を登り始めた。最初の乗越 から苦労しており、その先 の難所をどうやってクリアし たのかいまだに謎である。 40分ほどの順番待ちのあ と、いよいよ私たちの番であ る。塩TさんとK坂さん、私 と菊Tさんがパーティを組む。 K坂さんリードで先行し、次 に我々のパーティが進む。私 にとって初めてのアルパイン クライミングである。ネット で十分に調べているとはいえ、 緊張する。ルート上残置のハ ーケンは多数ありしっかりと した感じであるがどれも古い。 1P目の約 30mが核心、絶対、 落ちないぞと何度も自分に言 い聞かせながら菊Tさんのビ レーで登る。 10mほどでルー トが3つに分かれる。まず、 右のルートに行ってみる。凹 角気味のフェースでホールド が小さく、支点までの距離も 遠い。これは無理とすぐに退 散し、結局、一番左側の簡単 なルートを登る。このルート は最初のトラバースが少し怖 で いがホールドがほとんどガバ 残置も多く安心して登れる。 塩Tさんが待つ、最初の確保 点のテラスに到着、1Pが終 わり少しホッとする。K坂さ んは既に2P目をスタートし ている。急いで岩2点で支点 を構築し、次は菊Tさんが登 る番。本番は苦手という菊T さんではあるが、日頃からの 修行の成果か、高度感満載の 岩壁を難なく登ってきた。何 となくいきいきしている。 2P目はこのテラスから少 し右にトラバースし、チムニ ー横のトンネル状のクラック に到着する。このクラックの 出口は麓からの風の通路、雲 が煙のように流れていく光景 が何とも美しい。その雲に向 かってトンネルの中を進むと 高さ1.5mほどの岩、チョーク ストーンが行く手を遮る。こ のチョークストーン、ホール ドはあるが足場が少ない上に 滑る。苦労してチョークスト ーンの上を通過すると、少し 上のビレーポイントにいる塩 Tさんから「チョークストー ンは下を通過するんだ」との 声、それを聞いた菊Tさんか ら「何やってんの、ちゃんと したルートいってよ!」との クレーム。仕方なく、再度、 チョークストーンを乗り越し、 元の位置に戻る。確かに石の 下に隙間がある。ただ狭い! ザックを下し、隙間に入り、 匍匐前進。絶対、菊Tさんが ブーブー言うなと思いつつ、 胎内くぐりのような隘路を通 過し、ビレーポイントに到着。 次は菊Tさんの番、チョーク ストーンに到着した途端、 「エ ー 、ここ通るの?」 「絶対上ジ ャン!」 「ザックが挟まって取 れない」などなどなど、やっ ぱり不平の嵐、でも、あなた が下に行けって言ったのです よ・・・・。ラストで登る菊 Tさんは3000m近い岩稜 にただ一人、ビレーをしてい ることがたまらなく嬉しかっ たそうだ。雄大な穂高連峰に 囲まれた誰もいない静寂の空 間、沁みるような青空、今ま でにない経験。 3P目:凹角の急傾斜 20m、 ホールド、残置のプロテクシ ョンは豊富 4P目:階段状の普通の岩場 (確保なし) 5P目:頂上直下のスラブ 20 6 m P目:少しかぶり気味の 10 m 3峰の頂上と思いきやいつ の間にか2峰の頂上に到着。 2峰と前穂高岳頂上の間は 10m程度の急な岩場の下り、 支点を確保し懸垂下降した。 13時に前穂頂上に到着。やは の りバリエーションルートから 登頂の達成感は半端ない。 前穂の頂上からは少し雲のか かった奥穂高岳、奥穂から西 穂へのジャンダルムの稜線、 北穂高岳、これらを眺めなが ら、しばし、余韻に浸る。 前穂頂上までは緊張のため か、あっという間の出来事で あったが、ここからが長かっ た。前穂頂上から紀美子平へ の下り、奥穂への登り、穂高 山荘、ザイレングラードを経 て、6時前にようやく涸沢の テント場に着いた。全行程 13 時間半、充実した一日であっ た。翌日は北穂高岳を東稜か ら登る予定であったが、日が 暮れた頃から雨が降り出し、 疲労感と相まって早々と中止 を決定(軟弱者!) 、ゆっくり と夜を楽しんだ。 朝7時に起床すると、昨夜 の雨が嘘のような雲ひとつな い青空に北穂東稜の稜線がく っきりと浮かんでいる。北穂 登頂を中止したことを悔やん でも後の祭り。 テントを撤収後、パノラマ コースから下山することにし た。このルートは入り口に熟 練者向けの表示がある通り、 登山道は細く、左側は切り立 っており、気楽に歩ける道で ない。ただし、パノラマとい うだけあって眺望はすばらし い。上り始めの奥穂、北穂の 偉容が次第に遠ざかり、槍の 穂先が見えてくる。更に槍沢 から槍ヶ岳に至る全容が姿を 現し、最後に南岳から一気に 落ち込む大キレット稜線、息 を呑むばかりの景色である。 ただし、幸福な時間は稜線 までの1時間ちょっと、後は 徳沢まで2時間半高低差80 0mの急な下りが延々と続く。 最初の1 時間は絶景の余韻で 和やかに足が進むが、1 時間半 を過ぎたあたりから、 「こんな 荷物で二度と来ない」とか、 「アプローチシューズで歩く ところではない」とか、後ろ でぶつぶつ、このコースを選 んだ私には針の莚の1時間で あった。徳沢園で恒例のソフ トクリームと食事後、雨の降 らないうちに下山し、温泉で 汗を流した後、帰宅した。 今回の山行はリーダーをは じめとした素晴らしい仲間と 天気に恵まれ、この夏の鬱 憤をすべて吹き飛ばすことが できた。はじめて行きたい山 に行けた。 見たい景色が見えた。たぶ ん、来年、この夏の山行で覚 えているのは前穂高岳北尾根 だけであろう。 PS、沢渡第2駐車場前に30 0円で入浴できる「ともしび」 という温泉施設がある。男女 別であるが、壁があるようで ないような・・・、けして女 性にはおすすめできない。(記 Y城)