真っ白な砂の日向山 コースの選択に悩む

山の天気の諺に「梅雨明け十日」というのがあるのを知ってから、夏山は梅雨が明けるのを狙って山に行っていました。ほとんどの場合が諺のとおりで天気に恵まれました。しかし今年の天気はおかしい。気象庁が「梅雨明け」を報じても天気がすっきりしなくて山の計画が立てられない。ぐずぐずしていると「計画を立てろ」と命令が下りてくる。しかも「涼しいところがいい」などという勝手な条件を付けて。沢登りは別にして、夏に標高が一〇〇〇㍍そこそこの山で涼しい山があるはずがありませんよ。それでも必死になって探していると、本当に涼しいかどうかは分かりませんが涼しさを感じられそうなところがありました。甲斐駒ケ岳の前衛の山、日向山(ひなたやま)です。山自体が涼しいのではなくコースに仕掛けがあります。竹宇駒ヶ岳神社から尾白川に沿って登山道を不動大滝まで行き、そこから林道に上がって錦滝まで戻るように移動し、そこから日向山に登るというコースです。沢に沿った登山道を歩くのですから涼味は満点でしょう。ただし、不動滝から錦滝間の林道が崩壊していて通れないという情報を以前耳にしていたことです。もしそこが不通な場合は尾白川林道を錦滝まで使うという計画にして、最終判断は駒ヶ岳神社前の売店で情報をもらって決めることにして出発しました。

八月六日(日)、天気予報では甲府地方には晴のマークがついてます。メンバーはF田夫妻、F原、W部、K端と私の六名。新宿発六:三〇の臨時特急で小渕沢まで、そこからタクシーで駒ヶ岳神社へ。売店前の台に各種資料が積まれている、そこから日向山の案内を手にしてみたら、不動滝・錦滝間はやっぱり崩壊で不通でした。これで尾白川渓谷沿いのコースはなしに。さらに案内図を見ると錦滝・日向山間のコースにも大きな×印が付いているではありませんか。急いで売店のおばさんに確かめました。すると私の格好を見て判断したようで、登りに使うのならよろしい、ということでした。今回の計画全体がだめにならなくてよかったと一安心しました。これで今回のコースは《日向山登山口・・・矢立石・・・(尾白川林道)・・・錦滝・・・日向山・・・矢立石》に決定しました。

まずは矢立石の林道まで。針葉樹の植林の中を歩く。土の道で石ころもほとんどなく歩きやすい。しかし暑い。たまに生えている広葉樹の葉はそよとも動いていない。林道に出ました。一般のハイキングコースと錦滝経由で日向山に至る道の分岐点です。警告の掲示板が立っています。「錦滝と日向山間の登山道は滑落死亡事故があったので通行禁止とする」とあります。売店のおばさんは「登りには使ってよい」と言っていましたが気持ちが揺れます。一般コース組と林道コース組に分かれようか、との提案もありますが途中で計画を変更してパーティーを分割するのはよくないと私は考えました。「行けるところまで行って、ダメだったら戻ればよいではないか」という意見もありました。これにも私は賛成できませんでした。そこで私は考えました。メンバーのF田美子さんはこのコースのルート経験者です。しかもこのコースを下りに使っての。そして無事に通過し、いまここにいるのです。「よし! 予定のコースで行こう」と決心しました。

尾白川林道は想像以上にあれています。すぐに車止めの鉄柵がありました。巨岩が無数崩落して道をふさいでいます。そのいくつかはガードレールをなぎ倒して谷底に落ちて行ったようです。右側を見上げると今にも落ちてきそうな岩が下を覗き込んでいるように見えます。左側を恐る恐る覗き込むとそれこそ千尋の谷。目には垂直に切れているように見えます。(家に帰ってから地形図をチェックしてみたら、3㎜の幅に主曲線と計曲線が八本描かれていました。いまの印刷技術では地形図上に等高線で角度を表現できるのは五三度まで、と物の本には記載されていました。おそらくこの谷の傾斜は等高線が表現できる限度ぎりぎりの角度だったのではないかと思います。)一人が通れる踏み跡を残して両側は人の背丈以上に草が生い茂っています。

林道がこれほど荒れに荒れ放題なのに補修されていません。結局この道は生産活動にもまた人の生活にも必要でないものを作ったということでしょう。私たちがよく行く奥武蔵の山にもこういう林道がたくさんあります。地元の土建業者が保守系の議員とグルになって自治体の予算を使って作った道なのだと思います。なんという無駄遣いでしょう。こういう道を歩くたびに不愉快を感じ、怒りを覚えます。

錦滝につきました。吾妻屋があります。美子さんが以前来たときにはなかったそうです。このコースを利用する人が多いということでしょうか。錦滝の水量は少ないようですが落差約30㍍とか、なかなか立派な滝です。この場所でも進むべきかどうか、心が揺れましたが、登ることにしました。すぐに急登で、鎖、ロープ、そして梯子が現れてきました。そしてそれらのサポートのない急登個所も多い。たしかにここを下るのは相当に経験のある人でないと危険です。ここの標高差は三〇〇㍍と見て一気に登りつめるつもりでしたがなかなか登りきれません。あとで確かめたら標高差は四〇〇㍍ありました。やっと花崗岩が風化してできた砂原の末端にたどりつきました。見上げる頂上まではまだ一仕事ありそうなので一息入れました。

前回来たときは一般コースで自然林を飛び出すとそこは雁が原という広い砂地で、現れた絶景に歓声を上げたのですが余り周囲を歩かなかったのでした。しかしいま見ている景色は前回は見なかったものです。ひと言で言ってみれば南アルプスの鳳凰三山の地蔵岳周辺の景色にそっくり。あのオベリスクによく似た岩があちこちに屹立しその周辺は真っ白い砂原です。一息入れたところで頂上の雁が原を目指してがんばりました。古ぼけた「日向山」の標識がありました。頂上の三角点(一六五九・九㍍)は砂原を東に回ったところにあるようです。時計を見るともう一三時をとうに過ぎていました。すぐに昼食としました。

頂上にはわれわれのほかには若夫婦とよちよち歩きの子供がいるきりで静かでした。もともと天気は期待しない山行でしたが南側の甲斐駒も北側の八ヶ岳も雲に隠れていました。帰りは一般コースの尾根道を矢立石まで下り、そこでジャンボタクシーを呼び小渕沢に出ました。(記 S古)

山梨県・日向山(1660m)

大好きな山…こんなだったかな?

毎日猛暑の中、日帰り範囲で涼しい山と、S古さんが「日向山」を計画してくださった。この山は大好きなので、いつものお友達に呼び掛けた。この山は六年前、谷脇さんと二人で登っています。新宿駅6時30分発「あずさ71号」自由席に乗り込む。豪華列車の旅気分。「小淵沢駅」下車。タクシー二台で「竹宇駒ヶ岳神社」へ行く。一台目に乗りこみ、先に着いたS古さんは神社の売店の人から、矢立石から尾白川林道、錦滝、日向山コースは通行禁止になっているが、登りに使うには問題ない、下りは危険と聞いてきた。

神社から矢立石までの樹林帯を登りながら、今は下りは危険とされている日向山から錦滝までと尾白林道、矢立石登山口までのコースを、六年前に谷脇さんと下山しているので思い出していた。確か、「雁ヶ原」で「看板」を見たが、きちんと読まなかった。その当時、雁ヶ原には大勢いて、続々と錦滝方面に下りて行った。反対に登ってきた登山者もいて、私たち二人も当然のように、錦滝に下山した。雁ヶ原からは快適な下り、一歩進めば、ズルズルと三歩前に進み、こんな楽ちんコースはない、ルンルン鼻歌交じりで下山したのを覚えている。その後は、登りと違い、急降下だったが、谷脇さんの丁寧な指示で、(マンツウマンだったせいか)怖いと思わなかった。但し、古いグラグラした急な鉄の階段は怖かったのを覚えている、そして、林道は土砂崩れで、土砂の上に乗っかって渡った事を覚えている。

今日はそのコースを登りに使うという計画。「崩壊のため、通行禁止」の看板を皆でしっかり読んだ。「行くだけ行って駄目なら戻る」と、皆、楽天的だ。矢立石から林道を進む。林道は落石だらけ。でも、これなら通れる。六年前の崩落の林道はしっかり固まってしまっていて、通行できる。遂に、錦滝まで来てしまった。さて、この先は、確かに急登。K端さんはザックから「アイパッドミニ」を出し、インターネットの書き込みを読んでくださった。「ロープ、鎖の連続」と、読み上げた。六年前は全くなかったように思う。ここまで来てしまって、戻って、正規ルートを登ろうという人はいなかった。「滑落、通行禁止」の看板を横目で見ながら、突っ込んでいった。

急登、木の根につかまりながら、本当に出てきました。「ロープ」「鎖」「また、ロープ」先頭を行くK端さんは、足、腰、股関節等、体の不調を訴えていたのに、急に人が変わったように、生き生き、モリモリ、ガンガン進むではないか。そして、「ロープあります。」「鎖」「この木につかまって」「足はここ」「手」等ゆっくり丁寧に指示してくださった。S古さんがかすれた声を張り上げ、「ストックしまって」の指示。藤原さんはストックを持ってくれたり、段差の大きい所では私のお尻を持ち上げてくれたり、大騒ぎになった。こんなだったかな。長い年月に登山道が荒れてしまい、事故も起こったのでしょうね。それで、整備をしたのでしょう。

ようやく楽になり樹間から明るく白い物が見え出し、恐ろしい世界も終わりになった。これからは白い砂漠の中をルンルン気分、足も軽やかに、の、はずだった。ところが、一歩進めば、ザザザー三歩下がり、ザク、ズズズー。足を踏ん張っても、踏ん張っても、前に進めない。周りは一本も、木、が生えていない。暑い。喉はカラカラ。干からびて、熱中症で、倒れそう。それでも、靴を突き刺すようにすれば、登れることを、学習する。「雁ヶ原」に息絶え絶え、ようやくたどり着いた。ハワイのロングビーチのような風景。W部さんは蔵王のモンスターみたいだと、白い岩頭を見て感心している。展望抜群のはずだが、今日はガスがかかっている。でも、谷を隔てて、雨乞岳が大きい。

思い出します、K原塚さんリーダーで雨乞岳に登った事を。平坦な登山道でおしゃべりしながら、楽しく下山していたのに、突然、石につまずき、転倒、眼鏡のレンズが目に突き刺さったみたいに顔に激痛がはしって、倒れ、立ち上がれなかった。ベッタリ左側の額から血が噴き出し、皆さんに手当をしてもらったこと。W部さんが、吹っ飛んだ眼鏡を拾ってきてくれて、「福田さん、眼鏡は無事だよ。」と言ったこと。脳震盪を起こしていたのか、フラフラしながら下山した事。埼玉に夜帰り、娘婿が駅まで迎えに来てくれて、そのまま、深夜の夜間診療の病院へ。額を10針縫うことに。手術室を出てきたら、W部さんが、廊下に立っていて、びっくり。W部さんも山登りで疲れていたろうに、心配してきてくださった。あの時の出来事を、胸熱くしながら、思い出していた。そして、今日も、W部さんと、雨乞岳を見上げた。W部さんは何を思い出しているかな。さて、昼食を食べ、帰りは正規ルート。下山は皆、エンジンがかかったみたい。飛ぶように下り立った。この山は行きも帰りも同じ正規ルートだとつまらないかもしれない。小淵沢駅で特急あずさに乗る。夏休みの日曜日の夕方で、超満員。立席。今日一番疲れたのは特急の立ちんぼ。足が棒になって、つりそうだった。皆さんお世話になりました。(記 F田)

体の関節のあちこちが痛くて、名医がいると噂のI病院に通い始めたら、もらった薬のおかげか痛みが和らいできた。これなら行けるかもと日向山に申し込んだ。錦滝~山頂のルートは登山禁止の貼り紙がベタベタあったが、売店のおばさんが「登りに使うなら大丈夫」と言う。北杜市がHPで言ってることと違うけど、「自己責任で行ってね、警告したからね」というための貼り紙か?図々しくもトップを申し出る。鎖、ロープ,梯子の急登だが、面白くなってくる。雁が原の白い砂浜を堪能して下山。今回、やや緊張を要するルートで、まだワクワクできる自分がいることを知って嬉しかった。(記 K端)