三国川十字峡からネコブ山~残雪の山を独り占め

2018年4月20日

四月二十日から一泊二日でマイナー十二山の越後ネコブ山に登った。関越道塩沢石打インターで前泊し、五時半に三国川(さぐりがわ)ダム下到着した。ここからダムまでの道路右車線は空いているが左車線には通行禁止の車止めが置いてある。仕方なく田んぼの脇に駐車し、準備をして歩き始めた時、バイクで通りかかった男性が「もっと上まで車で行けるよ。ダム管理棟に駐車場があるよ」と教えてくれた。その言葉を信じて行ってみると、ダム管理棟までダムの上を通る冬用道路が続いていた。清潔で暖かなトイレもある。

これで十字峡までの四、五十分を短縮できた。シャクナゲ湖の北側の右岸道路を歩く。時々雪崩で崩落した土砂で道路が埋まっている。湖向こう側の左岸道路は雪で埋まっている箇所が多い。湖には水鳥が泳いでいる。満開の濃い桃色の桜を眺めながら進むと桑の木山に続く尾根が見えてくる。十字峡が見えてきたがネコブ山はまだ見えない。

十字峡登山センターを過ぎて橋を渡り、トンネルを抜けるといよいよ導水管に沿って伸びる水色の階段が見えてくる。十字峡登山センターは冬季の使用は不可となっていた。

右手に長く続く道水管とそれに沿っている急な階段の下が登山口である。気持ちの準備をして登山開始である。

何段ぐらいあるか数えながらゆっくり登る。時々リーダーが話しかけるのでその都度何段か忘れてしまうが、だいたい五百何十段,階段の上まで百五十mの標高差を登った。

階段を過ぎると本日の核心の一つの岩場である。雪靴と荷物の重さでバランスを崩さないように慎重に手足を探って登る。幸い高さは短く少し拍子抜けしたが奢ってはいけない。ここから三百mは藪漕ぎしながらの急登である。道の脇には薄いピンク色のイワウチワの花、見上げると濃い緑色のビロードの萼に包まれたタムシバの花が美しい。目の前に見えるタムシバの花の元は薄いピンク色で花の中には黄色とピンクのめしべも見える。いつも見上げるだけの花が手に取れる場所にある。

九百mを過ぎると尾根脇に雪が見え始める。千百m地点でアイゼンを履く。尾根の傾斜はなだらかになってきたが、藪に沿って雪が割れてきたので藪近くをそろそろと歩く。

今日は曇り空で時々涼しい風が吹いて歩きやすい。周囲には越後駒ケ岳から続く稜線上に丹後山、本谷山が見えている。

藪漕ぎはそれほどでもなかった。なだらかな尾根が見えたら桑の木山、運動会ができるほどの広さがある平らな山頂である。導水管から五時間かかって、ちょうど十二時。ネコブ山が大きく目の前にある。右端のコブも見える。時間が早いので山頂まで行くことになるが、標高差三百mに弱気になる。山頂を目の前にして弱気になる癖がついてしまっている。時間は充分あるし、下りはショートカットできそうなので、小さく「よっしゃ!」と心でつぶやき歩き始める。ブッシュを歩いたり、尾根に戻ったりしながら進む。ブッシュの脇から雪が割れ始めている。そろりそろりと尾根上を歩くがとても怖いので、割れ目をまたいでブッシュ側に逃げる。藪は背の高い笹と細い山毛欅が多く手強い。右にトラバースしながら頂上に続くなだらかな尾根に着いた。ここから頂上まで四百mのだらだら歩きがつらい。

息を切らしてやっと山頂に到着した。コブの上に座って周囲を見渡すと、三百六十度のパノラマ。

まず、南西から割引岳、巻機山、南に下津川山、東に本谷山、北東に丹後山、北に大きくそびえる中ノ岳、その先には塩田さん、高坂さんと登った越後駒ケ岳、北にはのどが渇いて死にそうだった八海山、阿寺山は目の前だ。八海山から中ノ岳に続く尾根上にはO野さんが以前他の会員と一緒に縦走したという五竜岳のおかめ覗きも見える。垂直にU字型に切れている。どのように降りて登ったのだろう。今度詳しく山行をお聞きしたい。

S木かさんの山行記録では私達と同じ十字峡からネコブ、下津川山を登り巻機までスキーを担いで縦走したそうだ。下津川山への稜線は尾根が細く鋭い。雪がついていない尾根もある。スキーを担いで登るなんてさすがS木かさん。

越後の山々を同定して、ゆっくりテン場まで下山する。太陽は西の空に暖かく輝き、少しずつ落ちてゆく。リーダーはテントの準備、私は夜の寒さに備えて衣服の調節をし、シュラフの準備をする。夕食は軽量化を徹底して、アルファー米やフリーズドライ食品。私は荷物を背負った後の毎度の肩コリで食欲が進まない。リーダーにフリーズドライの鮭雑炊を分けてもらってお腹がいっぱいになる。

広い雪野原に私たちのテントだけ。

目の前には登った者だけが知る大きなネコブ山、周囲には親しくなった越後の山々、西にはゆっくり落ちてゆく太陽。夜トイレに起きると三日月と星々が輝いていて幻想的だった。

翌日は下山だけなので、ゆっくり準備をして歩き始める。太陽は夏のように輝き、気温も二十五度を超えているだろう。途中登ってきた一人の男性登山者と話しをする。長岡からいらしたその方によると、三国川ダムができる前には、登山道があったそうだ。今は昭文社の地図には破線も無いバリエーションになっている。そういえばイワウチワは踏み跡の脇に咲いている。

上から見るタムシバの美しさに思わずスマホのカメラでパシャリ。ラインで家族に送ろう。登っている時には全然気が付かなかった大きな薄桃色の山ザクラが満開である。

急な下り斜面に辟易しながらやっと岩場に着く。階段を下りながら数えてみると六百五十六段だった。ダムの駐車場まではまだ一時間も歩くが、ここまで無事に降りることができ、緊張がほぐれてほっと一安心。夕食用に蕗の薹を少し摘む。橋を渡って右岸に戻り、小さな滝で水を汲む。冷たくて美味しいが飲んでも飲んでも渇きが止まらない。

湖に沿って植えられている一重の桜と黄色の水仙の花。通行禁止道路上のこの桜や水仙は私たち登山者のために今を盛りと咲いてくれているようだ。

軽量化をして残雪の山のテント泊を無事に楽しむことができた。リーダーの助言や協力のお陰である。念願の東北の山々の夏のテント泊の可能性も夢でなくなった。

身体全体を残雪の越後の山々に抱かれ、しばらくは心がいっぱいである。

コースタイム:4/20  三国川ダム管理棟:5:30 導水管下:7:00 桑の木山:12:00 ネコブ山:14:00

桑の木山テン場:15:40

4/21  桑の木山テン場:7:30 導水管下:12:00 ダム管理棟:13:00

メンバー:K藤(リーダー)、S田み

記:S田み