苦闘の前穂北尾根

2024年9月2日~5日

アルパインクライミング

第1日目(9月2日)埼玉→さわんどターミナル
台風の影響で、出発を1日遅らせ山小屋も何とかそれぞれ1日順延して予約が出来、準備万端で北朝霞駅からスタート。6人パーティーなので車2台で東所沢組と「談合坂SA」で合流、一路中央道を快調に進み松本インターから一般道をさわんどターミナルに向かう。途中のセブンで3日分の食料を調達して、今宵の宿「ライダースハウスともしび」に5時前に到着。当初さわんどターミナルの駐車場にテントを張る予定だったが、雨予報もあり1泊2000円で泊まれるというので、竹田さんに予約してもらい、ラクチンな宿泊です、おまけに温泉付き(確か8年前の北尾根の帰りの時にも入浴して評判が悪かった記憶)でさっぱりして夜の食事になり、それぞれ買い込んだ夜食とビールで入山祝いの乾杯です。
部屋は1Fで貸し切り、少し湿気を感じるもテレビもあり冷蔵庫もある、そしてその中に大玉のスイカが鎮座していて、後でオーナーさんから差し入れがあり皆でスイカをむさぼった「美味しい!ありがとう」を連発して、お礼を言う。なんだか得をした気分で早めの就寝です。

第2日目(9月3日)上高地→涸沢ヒュッテ
上高地までのバスが5時と思っていたら8月までの時刻表で一番早いのが6時との事だったので、5時ちょっと前にタクシー2台で(若い男性2人と相乗りして)上高地に向かう、久しぶり上高地だ~。登山届をポストに投函し身支度を整え歩き出す。天気は上々河童橋からは西穂高、奥穂高の稜線、そして吊り尾根のスカイラインがくっきりと見渡せる。明神までの遊歩道は土砂崩れで通行止めになっていて河童橋を渡って迂回ルート、いつもより数分余計な時間を要した。
明神で小休止して遊歩道を徳澤園に向かう、徳澤園は10年前にT田さんとの北尾根時に飛び込みで泊まった記憶が蘇り、当時9000円でコロコロステーキの食事と温泉、そして寝室は個室のように仕切られた場所で超ラッキィーだったことを思い出した。小休止して横尾に向かう、20分ほどして新村橋との分岐に差し掛かるも、工事中で橋は無い!パノラマ新道や奥又白に行くにはどこから行くのだろうか?との疑問を感じつつペースを上げて横尾に向かうが、この道も一部迂回路になっていて味気ない道になっていた。
トイレ休憩して、横尾橋を渡りいよいよ涸沢ヒュッテへの道をトレースする。ここからの標高差700mが本日の核心部、本谷橋までは傾斜はなかったが、そこからの急登が私には厳しい!心して気合を入れるもやはり高齢化で心肺機能の劣化とトレーニング不足でペースが上がらない。でも、まあ~本日は涸沢ヒュッテまで時間がかかっても着けばいいのでゆっくり登り途中休憩を何度もいれて、おまけに荷物も少し軽くしてもらい、何とか涸沢ヒュッテに1時半ころ到着です。

I田さんが受付をして、宿泊は別館の1階2部屋が貸し切りになり、今夜は暖かいお布団で寝られる。テラスに出ておでんとビールと思いきや、おでんは売り切れて、ラーメンを何人かに分けて麵をすする、なかなかのお味でお腹が満たされる。
翌日の北尾根のアプローチを偵察に行く、午後からガスってきて北尾根の稜線は見え隠れする、池の平の池を左から岩が積み重なった部分を詰めて、トレースが明瞭になるところまで下見です。なんだか時間がかかりそうな雰囲気。元来た道を戻って小屋に帰り、夕食まで時間があるのでテラスで小宴会、生ビールが五臓六腑に染み渡る。夕食は5時からで、10年前に比べて食材が良くなっているような・・・・。
明日の本番が早いので8時ころには就寝、起床は3時だったが本日の疲労があるというので3時半に変更です。今宵は良く寝られそうだ。

第3日目(9月4日)前穂北尾根→岳沢小屋
いよいよ目標の前穂北尾根の登攀当日、これまでのトレーニングの成果が問われる1日、3時半に起床、準備をして身支度を整えヘッドランプを装着して4時15分出発、天気は上々晴れ渡り北尾根の稜線から奥穂、北穂東稜まで見渡せる、絶好の登攀日和でした。
前日の下見のトレースを思い出しながら5.6コルを目指す、確かにどこからでも行けそうなトレースが一杯あり、迷いながらも5・6のコルに到着です。さあ~いよいよ北尾根の始まり、5峰を正面に見て胸が高鳴る。取り敢えずザックの荷物を軽くして、ハーネスやギア類のクライミング用具を装着し、M堀さんを先頭に、M野さん、T田さん、K木さん、I田さんのオーダーで登攀開始。
5峰はそれほど難しくもなく、背後の景色を堪能しながらあっけなく登り終えた。しかし下りきった正面の4峰頂稜には圧倒的な垂直の岩壁がせり出していて胸が躍る。予定通り4峰もフリーで登ることに、足場の脆い所は慎重に点検しながら高度を上げて、ガイド本にあるように切り立った岩塔からは涸沢側を巻いて4峰の頂点に立った。大きなハンマー状の岩の上で記念の写真をパチリ、まだまだ天気は良いので、青い空と岩とのコントラストがマッチしていい写真が撮れました。


4峰の尾根上を下って3.4のコルに下降して、これから登る3峰に向かい合う。これまで3回も登っている3峰を正面に見ても登攀ルートの記憶が蘇らない?取り敢えずここでロープを出してのマルチピッチの登攀の始まり、オーダーはT田さん、M堀さん、前野さんの1パーティー、S田、K木さん、I田さんの2パーティーの3人登りです。3峰の上部は雲がかかって来て先が見えなくなっている。

1ピッチ目T田さんパーティーの登攀開始、最初の取り付きから1ピッチ目のルートが明確でなく私が間違えてアドバイスしてしまったので、行き詰まり1ピッチ目の取り付き点に苦労した。
取り敢えず、1ピッチ目の取り付き点のビレイポイントが分かったので、I田さんにそこまで行ってもらい私を確保して、1ピッチ目は私が先行することになった。ここで多くの時間をロスした。
奥又白側を回り込んで残置のハーケンとカム、1番赤のカムをセットして奥又白側のスラブを左上していくと、残置のハーケンが乱打されていて、ここでピッチを切り、後続のI田さん、K木さんをフォローする。空はだんだん曇って来て上部の見通しが聞かないので、取り敢えずピッチのポイントらしきところでピッチを切ることを伝えて、2ピッチ目をI田さんにリードしてもらう。
I田さん安定した登りでロープが伸びて行きほどなくビレイ解除のコールが聞こえる。尾根上の安定したビレイポイント(実はここが1ピッチ目の終了点だった)で私とK木さんを引き上げる。
さて3ピッチ目登ろうとすると空からポツリと雨が降ってきた、天気予報で晴れのはずが想定外の雨です。
ラインは右のガレた岩が詰まった凹角(実はここが通常のルートだった)、真ん中のチムニー、そして私が登ったチムニーの左のスラブっぽいラインですが、雨の為岩場が濡れてきて滑りそうなルートでビレイヤ―のI田さんに「もしかしたら落ちるかもしれないのでよろしく」と声をかけて、慎重に足場を固め、出来るだけ滑らないホールドを保持しながらの厳しい登攀でした。それでもデシマルで5.6位なので何とか落ちずに大岩でピッチを切り、I田さんとK木さんを引き上げる、その間に雨も本格的に降って来てダウンはびしょ濡れ、ロープも濡れてきて、ビレイ操作がやりにくい、何とか2人を引き上げチムニーで雨をやり過ごす。
狭いチムニーで3人はギリギリで、急いで雨具を装着するが濡れた衣類で体温が奪われ体の震えが止まらない。厳しい条件ですが何とか乗り切らないといけない。後続の竹田さんパーティーに3ピッチは雨が凌げるチムニーから登ることを指示する。時間は刻々と過ぎて行き大幅に浪費しているが、ここまでくるとどんなことがあっても突破して登り切らなければならない、雨具を着たので震えが止まり次の4ピッチ(実はまだ2ピッチ目)を登る、このパートもスラブっぽく雨の影響でいやらしい、残置ハーケンにヌンチャクをセットしながら登り切り大岩で2人を確保する、その内雨も止んできて何とかなりそうな気持になってきた。2人を引き上げてほっと一安心、3峰の頂点まであと一息だ。
最後の5ピッチ(実は3ピッチ目)は最初傾斜の落ちたⅡ級くらいのザレた感じのルートですが後半は結構垂直なラインなので取り敢えず途中までフリーで行って確保する支点を見つけて突破しようと思って、支点を探しているといきなり足が滑って2m程滑落してやや窪んだ所で止まった。何が起こったのか分からず、どうして滑ったのかも分からず動揺した。一瞬「どこまで落ちるのか~」と思いながら、奈落の底を垣間見た。どうやら雨具のズボンの裾がフラットソールの踵を覆っていて滑ったのが原因だと思った。その時腰を打ってちょっと違和感があるので、最後の6ピッチ目はI田さんにリードしてもらい、何とか3峰の終了点に到達した。厳しい3峰のクライミングを登り終えて安堵したが、時間はすでに午後4時を過ぎていた。
取り敢えず本日の宿の岳沢小屋にスマホで遅くなる旨を連絡すると、「その時間だと小屋につくのは9時を過ぎるので、夕食無し、小屋も8時以降は宿泊の用意が出来ないので、小屋まで来て軒下でビバーグしてください」との事。遅くなったのは我々の責任で小屋が言うのももっともな事と了解して2峰を懸垂下降して、前穂高岳本峰を慎重に登り終えて頂上に着いた。頂上からは後続のT田さんパーティーが懸垂下降するところで、夕陽が差していて表銀座の山並みの背景に映えていた。
山頂でT田さんパーティーを待って小休止、記念の集合写真を納めて、紀美子平に下降です。
こうなったら夕食もなし、寝床もなし只管岳沢小屋まで下ってツエルトでビバークとなると、もう、慌てることもなく、途中からヘッドライトを頼りにいかに時間がかかろうが安全に下る事のみを考えて、励ましながら悪路を下る事にします。
紀美子平からも岩場の連続で慎重に進んでいきますが、岳沢小屋の明かりが遥か遠くに見えます、あんなところまで行くのか?と思うと心が折れますが、ただひたすらその明かりを目指して急坂を下って、やっとの思いで岳沢小屋近くに到着です。すでに小屋の明かりも消えていて、どこが小屋なのかも分からず右往左往していたらテントサイトに向かう登山者に少し苦言を呈されましたが、優しく案内されて無事岳沢小屋に到着です。
スマホを見たら夜の11時、静かにツエルトで包って1日の行動時間19時間の終焉です。いやはやなんとも大変な経験をしてしまいました。

4日目(9月5日)岳沢小屋→上高地
めちゃくちゃ疲れてほとんど睡眠もとれず、ただツエルトに包って夜を過ごしただけれど、特別体調不良のメンバーもなく、朝5時に岳沢小屋の朝食を頂きました。勿論小屋番さんからも苦言を呈されて(当然です)、「ご心配をかけてすいません」と謝ると「心配はしませんが、寝不足になりました!」「あなた方は何故北尾根に登ったのですか?」と問い詰められました。返す言葉もなく、「まあ~救助要請もなかったから、良かったものの」と‥小屋番さんに・・・。
5時30分キャンセル料を支払って小屋から出て、上高地向かいます。前日とは違って傾斜もゆるく歩きやすい登山道。途中「風穴」で涼しさを感じ、下山口上高地に降りました。
ベンチでザックの中からギア類を取り出し、整理しコーヒーを飲みながらまったり。バスでさわんどターミナルまで移動し、「梓湖畔の湯」で4日間の汗を流し、向かい側の「食事処しもまき」で大盛りの御蕎麦を頂き、埼玉への帰路につきました。皆さんお疲れさまでした、そしてありがとうございました。

【メンバー】L:S田(記)、SL:T田、M堀、K木、M野、I田

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