南ア・黒檜山

2015年8月6日~9日

南アルプスの黒檜山(くろ べいやま)と聞いてもその存 在を知る人は希であると思う。 私がその名を知ったのは、国 土地理院の「日本の主な山岳 標高一〇〇三山」である。天 竜川の支流三峰川上流にあっ て、仙塩尾根の熊の平付近か ら延ばした支尾根の先端に有 る山で、標高は二五四一㍍で 山岳標高位は一四四位である。 さらに先の「一〇〇三山」 から「日本一〇〇名山」にち なんだ「山岳標高一〇〇位」 や「山岳標高二〇〇位」をネ ットで検索して登り始めた。 「標高一〇〇位」は二〇一二 年七月二八日に南アルプスの 大沢岳を登って完登した。さ らに「標高二〇〇位」は四座 が残っている。が、残った山 は奥深く中々登りづらい場所 に有り、車のない身としては 計画を躊躇していた。 今回の計画では南アルプス の北玄関である戸台口(仙流 荘)へ夜行バスで向かい、車 道を七.五㎞、さらに林道の 始点・杉島ゲートから二五㎞、 合計三二.五㎞歩いてやっと 登り口の熊沢出合までたどり 着く。翌日三峰川を徒渉して 登山道のない尾根を詰めて山 頂へ向かい、下山後、熊沢出 合でさらに一泊して翌日往路 を戻る予定で出かける。

一日目、二八㎞を歩く

夜行バスで寝ぼけた体に気 合いを入れて歩き始める。実 は長い車道・林道歩きを想定 して七月に万座温泉近くの御 飯岳にて約一二㎞(往復二四 ㎞)の車道を歩いた。足の裏 にまめができた。まめ対策を 兼ねて七月末に自宅から国道 一七号線を往復二〇㎞歩いて 準備(?)した。 テントを担いだ約一七㎏の ザックが少々重いが地形図を 片手に順調に歩ける。杉島ゲ ートからは樹林帯の林道(車 道)になって少しは涼しい。 約一時間歩いて一〇分休憩の ピッチで歩く。三峰川第二発 電所を過ぎやっと大曲ゲート に到着する。以前はこの場所 まで車で入れたそうだ。此処 で昼食タイムとする。 足裏が痛くなってくる。ザ ックも少しずつ重く感じ、肩 が泣きそうになってきた。大 曲を過ぎると両側が切り立っ た岩場で、下を流れる三峰川 には淵が連続する巫女淵とな る。延命水を過ぎ塩見岳登山 口に着く。三峰川林道が閉鎖 中の今は、此処から塩見岳を 登る登山者は皆無に近いだろ う。大黒橋を渡りしばらく歩 くと作業小屋が有った。休憩 して内部を偵察する。畳敷き で快適そうな小屋だった。時 間はまだ早いので先を急ぐ。 が、此処から空身でアタック した方が楽かもとも思う。良 い天気が少し暗くなり雷鳴が 鳴り出した。雨を予想して五 ~六分歩いて引き返し、作業 小屋泊まりとする。案の定暫 くして猛烈な雨が降ってきた。 正解だった。

二日目、黒檜山アタック

イワナ釣りの釣り人と一夜 を過ごし、早朝に小屋を出発 する。本日も良い天気だ。涼 しい朝の空気を感じながら昨 日痛めた足裏は、テーピング テープを貼り付けて順調なよ うだ。熊沢出合が判るだろう かと地形図を思い出して歩く。 取水口から暫くして熊沢を確 認する。徒渉点もネットで見 た地形を確認して林道から河 原に降りる。ズボンの下半分 を外して徒渉に移る。この時 トレランシューズを沢向こう に先に渡しておきたくて投げ る。うまく対岸に着地した。 と、思ったらバウンドして転 がり沢に落ちてしまった。一 瞬やばい!流されていく靴を 必死で追いながら捕れないと 裸足では帰れない!二〇~三 〇㍍追いかけてやっと捕まえ た。ホッとする。裸足の足裏 の痛さはあまり感じなかった が、捕まえ終わって猛烈に痛 さを感じた。大失態である。 靴をザックに入れて徒渉、 暫く気を落ち着けてから登り 始める。ネットでは尾根の先 端から忠実に登っているが、 先端は岩壁で崖になっている。 暫く登り口を探しながら尾根 を回り込み登り出すが、どう しても登れそうにない。徒渉 点近くまで引き返す。約三〇 分のロスになった。尾根の崖 手前にある青テープに導かれ てザレた岩屑の急坂を腹ばい に近い感じで強引に登る。約 一〇〇㍍でやっと右の小尾根 に乗れた。灌木に捕まりなが らさらに登ると明瞭な踏み跡 のある尾根に出た。後は尾根 を忠実に辿って登ればよいと 一安心した。 踏み跡程度の尾根で地形図 と高度計を眺めながら登る。 踏み跡を失うと立ち止まりテ ープを探す。一八七〇㍍分岐 は下りで左に曲がるので下り 用に自分の赤布を付けておく。 さらに二〇五四㍍地点は下り で右に折れる地点で此処でも 赤布を付ける。木々の間から 前方に黒檜山が望めるがまだ 遠い。一度下り登り返すとシ ャツが枝に引っかかる灌木の 藪と倒木帯が続く。さらに岩 場多くが出てくるも巻道を見 つけて登る。山頂近くは尾根 から逸れて左側の谷を登るよ うに進み、稜線に戻って左に 数分で山頂に到着した。一寸 した小平地の中央に三角点が 有る。樹林の為に展望はない。 疲れて大休止にする。 下山は往路を忠実に戻る。 登りでは感じなかった小尾根 に注意しながら、赤布と青テ ープをいつも探しながら下る。 下りでは思った以上に傾斜が 急に思えて、こんな所有った かな!と、随所で立ち止まる。 が、何とか徒渉点まで帰れた。 登りに約四時間、下りは二時 間四〇分で歩けた。徒渉して 大休憩する。しっかりと疲れ たが、長年の宿題を達成出来 た充実感に暫し浸っていた。 足裏の痛さも気にせず快調な 足取りで作業小屋に帰り着く。 残りのお酒で乾杯!

三日目、林道を戻る

陽が上がる前の涼しい時間 に歩くために早めに出発する。 杉島ゲートまで約二〇.五㎞、 距離程表示を参考に約五㎞ピ ッチで歩く。休憩を含めて四 時間五〇分で歩き通す。途中 で自転車利用の渓流つりの人 二組四名、歩きの沢登りらし いグループ六名とすれ違う。 ゲートを越えて座り込む。こ の後は灼熱の車道歩きが待っ ている。気を取り直して歩き 出す。ゲートから約一㎞付近 にバスが停まっている。淡い 期待を抱いて早足で歩く。長 谷循環バスだった。発車時間 も間近で涼しいバスに乗せて もらう。もう歩かなくて良い んだ!仙流荘で温泉に入り三 日分の汚れと疲れを洗い流す。 バス時間まで約四時間を乾杯、 昼食、うたた寝で過ごす。バ スで伊那市へ出て、飯田線、 中央線で帰る。良かった。

I﨑

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