四年前の県連の登山学校の雪山登山に参加する時、徳重さんから「雪山用の登山靴は凍傷にならないようなものを用意してね」とアドヴァイスされ、私の登山用具の中で一番高価な登山靴を買った。でも、登山学校で山行した那須岳は強風が吹き荒れ、ピッケルの冷たさで手の感覚も無くなり冬山はもうこりごりと、三年間ピカピカのまま箪笥の上の置物になっていた。しかし、冬に雪山に行かないと他の山行が少なく、登山スケジュールは休業状態、仲間の雪山山行を羨ましく眺めていた。五十の山の白岩山リーダーを実行する際に相談した羽竜さんから、一月末の日程で雲取山と併せて初級雪山登山を勧められた。羽竜さんがサブリーダーを担当(実質はリーダー)してくれることになり、もうこれはアイゼン買って行くしかないと覚悟を決めた。冬シーズン始めの十二月、一月に、K藤さんリーダーの雪山初級「湯の丸山」、「鹿俣山」、「荒山」を経験した後、山小屋泊で、白岩山~雲取山の雪山に挑戦できた。冬靴と十二本爪アイゼンは重かったが、三峰神社まで無事に帰って来られた。三月には河原塚さんリーダーの「浅間隠山」、四月にはK藤さんリーダーの「雨ヶ立」、五月には「会津駒~大戸沢岳~三岩岳」を縦走し、ワカンを経験した。六月には「越後朝日岳」「浅草岳」に登り、浅草岳の雪渓をツボ足で上り下りした。そして、今回の白馬岳雪渓歩きである。白馬山荘に泊まり二日目白馬岳から杓子岳、白馬鑓ヶ岳から鑓温泉を下って、猿倉に戻る計画である。早朝、埼玉を出発して、猿倉の登山口に八時に到着、八時一五分にスタートした。私は安全性を第一にして、他の荷物は極力控えて、冬山登山靴と十二本爪アイゼンで登った。天候は下り坂だが、雨は降っていない。曇り空ではあるが、周りの木々の緑は美しい。鑓温泉への登山口を過ぎ、木道の橋を渡り、山道を歩くと白馬尻小屋に到着する。トイレ休憩してから登り続けると、広い大地が見えてくる。大雪渓には赤いベンガラが引かれている。アイゼンを付け、買ったばかりの軽いピッケルを用意する。登山者は霧の中に何組か見えるが、後ろには見えず、焦らず登れそうである。ベンガラ道にまで、大小の落石がある。視界が悪いので、耳をそばだてて、落石の音を聴く。時々、サラサラと落石の音がする。リーダーが落石を見つけられるよう前を歩いてくれる。風が吹き、視界が良くなると、周囲のゴツゴツした岩肌と緑の低木のコントラストや鳥の透明な鳴き声に癒される。一歩一歩慎重に斜面を登ることに専念しているうちに、大雪渓が終了した。アイゼンを外してからの登山道では、自分が落石を起こさないよう注意して登る。小雪渓は、トラバースであるが、アイゼンでがっちり雪面に入るので登り易い。小雪渓を過ぎれば、お花畑である。咲終わりのウルップソウ、ミヤマキンポウゲ、ハクサンコザクラ、ハクサンフーロ、シナノキンバイ、ハクサンイチゲ、クルマユリ、ミヤマオダマキなどが咲き誇っている。雲の晴れ間から、杓子岳や鑓ヶ岳の勇壮な姿が見えてくる。頂上宿舎につく頃には、一段と風が強くなり、白馬山荘にザックを置いて、山頂まで一目散に登る。とても寒くてじっとしていられない。山頂はやはりものすごい風である。山荘受付では、労山割引を利用できた。その上、白馬山荘百十周年記念の手ぬぐいと甘酒を頂く。夕食が終わる頃、外は暴風雨である。窓をたたく風の音で眠れず、布団の中でうつらうつらする。晴れ女なのに今回は低気圧に負けてしまった。翌日も天候は回復せず、K藤リーダーから計画通りの鑓温泉に降りるルートは無理なので二つのエスケープルートを示された。大雪渓を降りるピストンのルートと白馬大池~栂池に降りるルートである。大雪渓ルートは、風による落石が心配である。二つ目のルートは尾根歩きのため、強風で飛ばされる危険がある。私は昨日の白馬山頂への登りでも、飛ばされそうになり、怖い思いをしている。相談の結果、大雪渓を降りることになった。雨と風への備えをして出発する。小雪渓までの登山道は、雨のため川のように水が流れ、何度かルートを見失いそうになる。どうにか、大雪渓の上に出る。この頃には風は弱まり、雨もやや小降りになる。ベンガラ道には、昨日の登りよりもさらに、多くの落石が落ちている。早く雪渓を抜けたい気持ちが強く、休みもそこそこに歩き続ける。大雪渓を下り終え、アイゼンを外した時は、本当にホッと一安心した。どなたも落石に遭わずに済んだ。途中出逢った、二人連れの登山者のお一人が、足首を捻挫したとのこと。四本爪アイゼンだったから、きっと雪渓で滑って疲れが出ていたのだろう。アイゼンを外した途端に捻ってしまったようである。落石の危険がある雪渓は無事過ぎたが、猿倉までの登山道は、川のように水が流れ沢歩きのようである。小さな沢の流れに渡した木道の上からは滝のように水が溢れ、流れ落ちる水流を受けると真っすぐ歩くのも恐ろしく、木道を滑らないように腰を下ろして横歩きで通り抜ける。長走沢は濁流が流れ、かかっている木橋を渡るのも命がけである。猿倉の登山口に着いた時には、少し明るくなり、帰りがけの道の駅では長野とはいえムッとする暑さになった。悪天候で縦走はできず残念であるが、アイゼンを履いて歩き通すことができた。今シーズンから、初級の雪山を始めて、残雪の山も経験できた。アイゼンを履いて、長い時間歩くことも可能になった。雪山なんてきっと行けないだろうと諦めていたが、少し背伸びをすることで、新しい山の楽しさを知ることができた。これも山岳会という組織とお仲間のお蔭である。いつも感謝しています。(記 島D)
K藤(L)、石D、犬M、島D
一日目:猿倉登山口8:15~白馬尻小屋9:20~岩室13:30~白馬山荘15:30~白馬岳16:00
二日目:白馬山荘7:30~猿倉登山口11:30