三重県大杉谷・奈良県大台ヶ原

お巡りさんから声かけされて

2023年11月2~4日

平日休み+三連休を利用して大台ヶ原を歩くため、大杉谷から入るルートを取った。平日は大杉渓谷登山口までの直通バスが無いため、市営バスの終点から1時間半ほど車道歩き。
一人で黙々と1時間ほど歩いたところで、パトカーが横に着けた。車内にはお巡りさんと、登山者とおぼしき人が3人。いぶかしむ私にお巡りさんがこう言った。
「お姉さん、登山口まで行かはるのでしたら、私らと一緒に来てくれません?」

衝撃の声かけ内容。
登山道で事故でもあったのか?それとも熊が出た?もしかして、単独行では危険だから帰りなさいと連行か?
~大台ヶ原、登山口の手前にて完~

…とアホな事を考えていると、お巡りさんが「安全登山のお願いをしている」と説明してくれた。
大杉谷は急峻な渓谷のルートで、転落するとただでは済まず、毎年死亡事故が起きている。そのため、ピストンで大杉谷に入っている登山者が無事に下山しているか、県警の警察官が登山口駐車場まで行って、放置されている車が無いかを確認している。その道すがら、登山者に声を掛けて、登山道上の注意点について説明しているとのこと。例えば、

・鎖が設置されている箇所では、しっかり鎖をつかんで通行する
・ストックは使わない(岩場ルートのため)
事故事例:ダブルストックの女性→バランスを崩した際に鎖をつかもうとしたが、ストックが邪魔で鎖をつかめず、崖下に転落
・事故の多くが下りで起きている。下りを禁止してはいないが、登りでの通行を推奨
・景色を眺める・写真を撮る時は、しっかり立ち止まる。歩きながらスマホの出し入れをしない
・登山道脇の岩肌から水が流れ落ちてくる箇所があり、水量が多いと濡れる場合がある。水を避けようとして登山道から滑落することがあるので、濡れても鎖をつかんで通行する

「皆さんのご協力で、今シーズンはまだ死亡事故は起きてません。このまま事故無く閉山できればと思っとります」
と語るお巡りさんに見送られ、登山道を進むと、過保護なくらい立派でつかみやすい鎖が張り巡らされている。「ここって鎖、必要かなぁ?」と思う場所もあるが、お巡りさんの指導の通り、とりあえず鎖を使う。
そして、“その時”は二日目の朝に来た。

ご飯が美味しくて、入浴もできて、とても快適な山小屋で一泊し(大杉谷・大台ヶ原はテント泊禁止)、鋭気を養い二日目スタート。すると、すぐに岩肌からバシャバシャ水が降り注ぐ箇所に出た。朝っぱらから濡れるのかぁ、道幅も広いし、鎖を使わず水を避けて歩いてもいいんじゃない?
しかし、お巡りさんの「登山口で元気にお別れしたのに、病院で再会はカンベン」との言葉を思い出して苦笑いし、鎖をつかんで水の滴りの下を歩き出す。と、岩が濡れていて気が付かなかったが、茶色い苔でヌメヌメで、思いっきりズリーッと足が滑る!ああ、ダメだ!コケるー!
と思ったが、鎖をしっかり握っていたので、転ぶことなくピタッと停止。そして、何事も無かったかのように澄ました顔で体勢を整える。だが、「もし鎖をつかんでなかったら、派手に転んでケガをしていただろうな」と内心ドキドキだ。
この件を教訓に、いくつもの滝見を楽しみつつ、鎖に助けられながら慎重に岩場を通過し、高度を上げていく。

渓谷を外れて大台ヶ原エリアに入ると、快適な尾根歩き。大台ヶ原の最高峰・日出ヶ岳は、山とは思えないなだらかな山頂で、今までの静寂とは別世界の人出で賑わっている。
東大台の笹原を一回りしてからビジターセンターを訪ね、翌日の西大台(利用調整地区のため、入山には事前申請が必要)の立ち入りのための講習を受ける。

三日目は西大台の原生林の散策を楽しむ。利用調整地区の端にある展望所からは、昨日歩いた東大台を臨むことができる。
ここでお昼を食べていると、後から来た登山者が、
「ここには5.7~11台3~4ピッチくらいのクライミングのルートがいくつかあるんですよ」
と教えてくれた。
大杉谷には初級者にも楽しめそうな沢登りルートもあるし、機会があれば再訪したいものだ。そんな風に思えるのも、事故もケガも無く山行を終えられたからこそ。
声かけしてくれたお巡りさん、登山者の安全を願い尽力してくださっている警察、山小屋、登山者センター・ビジターセンターの皆さん、ありがとう。

ルート
一日目:大杉谷登山センター→大杉渓谷登山口→桃ノ木山の家
二日目:桃ノ木山の家→日出ヶ岳→大蛇グラ→大台ヶ原ビジターセンター(講習)→心・湯治館
三日目:心・湯治館→日出ヶ岳ピストン(日の出鑑賞)→西大台(反時計回り)→逆峠→大台山上駐車場

メンバー:T川(単独)

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