2018年8月8日~12日
二十歳のころ、勤務先の保護者の方から「北アルプスに登ってみない?」と声をかけていただきました。保護者の田舎が大町市の近くの美麻村だったのです。女だけの地味な職場で出かけることも少なかった私に「夏の数日を涼しくて、素晴らしい景色の、私の田舎の山を見て」と誘ってくれました。その方の幼なじみの、山岳救助隊の方の案内で初めて北アルプスに足をいれました。ブナ立尾根からの長い急登の先にひょっこり烏帽子小屋が顔をだしました。小屋では、熊の肉の燻製をはじめて食べ、二人で一枚の布団にびっくりしました。
次の日は野口五郎岳をはじめピークを次々越える、裏銀座コースを歩きました。歩き疲れたころ、ぱっと開けた広い台地が目に入りました。そこは北アルプスの、最奥部に位置する雲ノ平で、初めて目にする感動の景色でした。雲ノ平小屋では黒部の源流のイワナの塩焼きをごちそうしてくれました。
次の日は三俣蓮華岳から一気に新穂高温泉に下り、高山経由で名古屋から新幹線に乗り、その日のうちに帰宅しました。
その時の経験、雲ノ平の景色はその後、困難に出会ったとき、悲しみの時にずっと私を励まし続けてくれました。
誘ってくださった保護者、案内して一緒に雲ノ平まで行ってくれた救助隊の方,小屋の人たち。あの時、出会った人たちの優しさ、暖かさは山の素晴らしさとあいまって、いまでも脳裏にしっかりと刻まれています。
その後大宮労山に入って三年後の夏、再び雲ノ平に行く機会に恵まれました。S古よさんがリーダーで六人が竹村新道から水晶小屋まで一気に登りました。この時は温泉好き憧れの、高天原温泉まで足を延ばしました。雲ノ平の小屋ではオーナーの伊藤さんがおられてワインを飲みながらS古よさんたちが談笑されていました。
そして今回は富山県側の折立から登りました。今まで遠くから眺めるだけだった薬師岳に、やっと登ることができました。
薬師岳への登り、遠くに槍
折立側は高速のインターからも近く林道も整備されていました。急登も少なくよく整備されているので、二十年ぶりの雲ノ平にはこのコースが最適でした。
新しくなった雲ノ平の小屋の外観は五十年前のままで、中は木の香りの気持の良い清潔でシンプルな造りに変わっていました。何より後継者の方が日本の一番の最深部にある小屋を、守ってくださっていることに感激しました。
最初に雲の平に足を入れた印象は溶岩のゴロゴロした茶色のイメージでした。五十年近くたった今回は、緑が多い台地に変わっていました。盛りは過ぎていたがチングルマなどの高山植物も多くなったように思いました。散策の為、半日ほど時間を取って、のんびりと楽しんだのが、印象を変えているのかもしれません。
雲の平 スイス庭園にて 高天原も見えます
この小屋を目当てに沢山の登山者が雲ノ平を訪れていました。小屋の出来たいきさつは伊藤正一さんの書かれた「黒部の山賊」の本に書かれています。北アルプス好きにはたまらない本であると思います。
今回の富山側からのコースも展望に恵まれ、珍しい花々にも出あえた、素晴らしいコースでした。生涯忘れることのできない感動の連続の山行になりました。メンバーにただ感謝のみです。
今回の山行で、前日を含めれば、六日も家を空けるのは、正直大変でした。施設にお世話になっている,九十三歳の母のことが、私の一番の気がかりでした。山から帰って早速行ってみましたが、何とか元気な様子でホッとしました。
記:K塚