2021年4月24日
このルートは、打田鍈一著『薮岩魂』の中では大ナゲシ北稜と並び、最難関のルートという情報を得てしまった。絶句! 聞かなきゃ良かった。マイナーな山なのに。
6:00地図で調べた桧沢集落のカーブに駐車。小屋の脇に薄い踏み跡があり沢沿いを行く。堰堤を越え、涸沢を登り、北側の斜面に取り付く。
ザレた急登を適当に這い上がって尾根に出ると傾斜は少しだけ緩やかになり、更に明るい広場に出た。美味しそうなワラビの群生。そこから主稜線に出てもしばらくは幸せな尾根が続く。嵐の前の静けさとはこの事?
830mを越すとポツポツ岩場が現れる。7:30、911m峰着。尾根の先端を覗くとその先はザレた急斜面。懸垂かクライムダウンか。「せっかくロープ持って来たから懸垂すっか」とT羽さんがロープを出そうとリュックを開けた。その途端、アッ! ゴロゴロ! おにぎりならぬヘルメットが行き先とは別方向の急斜面を転がり落ちていった!「あー!買ったばっかり。まだ3回しか使ってないのに」諦めきれないT羽さん、取りに行くゾと。先程出したロープで懸垂。崖下でゴソゴソ・ガチャガチャ。しばらくかかったがどうにかこうにか登り返し、回収してきた。ヒヤヒヤもん。何が起こるか分からない。気を取り直してクライムダウンでザレ場を下りた。
稜線上には次々と奇岩が出てくる。2つニョキっと角が生えたような岩。モアイ岩と呼ばれる大岩。踏み跡はほとんど判らない。H竜さん、動物的勘でトップを行く。ヘツって巻いてトラバース。また、ヘツって巻いてトラバース。両側は切れ落ちたヤセ尾根。高度感半端なし。
1010mの松葉のピーク。直進しちゃダメ。下りられない。尾根を探す。少し引き返して南東に小さな尾根を見つけた。その先5mの懸垂。
前方に西峰その左に本峰が見える。次が20mの懸垂だ。しっかりした残置シュリンゲが数本あり支点を取る。下り始めは怖いが段々楽しくなる。着地点から今下りた壁を見上げた。「逆コースは無理だよな。ここを登るの大変だ。岩が脆いし被ってるからな」と言うH竜さんに同感。
もう後戻りは出来ない。でもね、この先崩壊地のトラバースもあるんだって。懸垂で下りたばかりなのに目の前に岩壁が立ちはだかる。アフー、ここを登るのね。H竜さん、ガンガン行ってしまう。立木をつかむ。立ち枯れでボキっと折れる。岩をつかむ。もろく角がポロっと取れる。土から出ている木の根をつかむ。スルっと抜け落ちる。どこぞの山で藪漕ぎをしながら『暇なんだもん』と“なごり雪”を歌っていたMSさんも今日は静かだ。いつもなら伴奏付きの一人芝居をするT羽さんも静か。皆真剣だ。
崩壊地のバンドに来た。朽ちた木が頭上に横たわっている。根本は半分ブラブラ。右の岩壁とこの木を掴んで登るしかない。トップのH竜さん「TNビレーしろよ」。いつになく緊張しながら乗っ越して行った。上からはバラバラと木端と土が落ちてくる。「ビレー解除」。やがて「はい。いいよー」。「行きまーす」。高さは5m位かな? 半分登る。あ、カラビナ外してない。もう一度ダウン。再度登る。足場が無い。下からMSさんが「左に足場あるよ。ガンバ」と声を掛けてくれる。上部の枝に手が掛かった。体を持ち上げる。「ここまで来い。そしたら引き上げてやるから」とH竜さん。あ、2つ目のカラビナに繋がってる。外してない。そんな余裕無かった。「落ちないからロープ少し緩めてー」。やっとの思いでカラビナを外す。が、もう手はパンパン。体が上がらない。どーしよう、どーすればいいだろう。後戻りは出来ない。でも、体も上がらない。上から「少し休め」とH竜さんの声。顔は見えているがそこまで行けない。ジムなら『テンション、下りまーす』なのに。手ブラしてから再開。壁を右足でプッシュ。上にある根っこに左手が届いた。右にある半分グラグラの木の根に足を掛ける。体を起こす。右手プッシュ。上の木の根に左膝が掛かった。H竜さんがロープで引っ張ってくれる。うー! どうにか乗っ越せた。もうダメ! 疲れたぁ! 腕も痛いー! 被った12.d(?)を登った感じ。後続のMSさんですら時間がかかった。T羽さんも「どーやんだー。上がんねー」と言いながらカラビナを回収しながら上がってきた。やはり、あれを一人で乗っ越したH竜さんはすごい! ここが私の核心部だった。
休む暇無くまだまだ続く崩壊地をトラバース。高度感バツグンの岩場もトラバース。踏み外したらおしまい。が、既にそこは西峰直下。本峰は目の前だ。
フー! あらら、ヤシオツツジがあちこちにある。わー! 癒される。見下ろす世界は春霞の中にマッタリしていた。
そして最後の懸垂。が支点が取れない。朽ちた木ばかり。「そう言えば、支点までの2~3歩が怖いって書いてあったな」とH竜さん。下の方の木に支点を取るしかない。そこまで行くためにセルフの支点を取りたいが、ちょうどよい場所の岩が浮いている。仕方ないので大岩に長いシュリンゲを廻してセルフを取り、更に3歩のクライムダウン。その下の支点から懸垂。H竜さんが支点を構築してくれて下りて行った。下りるのを見ていると半分空中懸垂に見える。「足場が細いけど、大丈夫だ」と下から声がかかる。「はい。行きます」懸垂はあっという間に終了。最後のT羽さんが、セルフを取りながら登り返して大岩に廻したシュリンゲを回収してくれた。
その後も足元の切れ落ちた岩壁をトラバースして壁をよじ登る。気が抜けない。
祠があればバリの終了。祠に「寛永通宝」のお賽銭があると言うが見当たらない。誰か持ち去った?
要所要所で的確な判断をするリーダーのH竜さんはさすがだ。山に入ると『神』に変身する?
ありがとう。みんなここまで良くきたね。頑張ったね。
アカヤシオの微妙な色の違いが目に沁みた。
メンバー L.H竜 S.L.T羽 MS T中
コ–スタイム
6:00S
7:25~8:30 930m峰(メット回収とクライムダウン)
10:05モアイ岩
10:35~11:10 20m懸垂
13:15~13:20祠
13:40~14:00桧沢岳山頂
14:35G(T羽さんが車の回収に林道を行ってくれた。ありがとう)
記:TN